dip
【組織解剖】人材市場のマッチング精度をAI/MLで引き上げる - CTO室「AI Embedded」の設計思想と現在地

【組織解剖】人材市場のマッチング精度をAI/MLで引き上げる - CTO室「AI Embedded」の設計思想と現在地

# 思想# AI
澤田 悠暉
2026/05/01公開2026/08/15更新

はじめに

ディップ株式会社 CTO室 AI Embedded ユニットでテックリードをしている澤田です。

AI Embeddedユニットは、人材市場のマッチング精度をAI/ML技術で引き上げるために、2025年5月に新設された組織です。全社横断的にAI/ML技術をプロダクト活用するため、現在はCTO室直下に配置されています。

この記事では、このユニットがなぜ必要だったのか、どんなことに向き合っているのかを紹介します。

なぜ AI Embedded ユニットが必要なのか

人材市場のような大規模なマッチング領域では、AI/ML技術の活用が事業競争力の核になりつつあります。求職者と仕事(企業)の組み合わせは膨大で、価値観や条件のニュアンスも複雑です。データから学習したモデルなら、人が条件として書ききれないほどの特徴量を扱って判断を下せますし、求職者の潜在的なニーズにも対応することができます。マッチング技術は求職者の体験と事業成果の両方に効果がある領域です。

同時に、AIによる市場変化のスピードがこれまでにない速さで大きくなっています。新しい技術や手法が次々と登場し、それを前提に事業戦略やプロダクトのあり方も変わっていく。半年前の前提が通用しないことも多々あります。こういう変化に追従するには、検証から実装までを内製で一気通貫に持てるチームが必要です。設計から運用までを自分たちでやり切れるスピード感がないと、市場の動きに追いついていけません。

そして、この必要性はバイトルだけにとどまりません。AI/ML技術を活かせる場面は、求職者と仕事をマッチングする箇所だけに限らず、ディップが扱うプロダクトや業務の中に広がっています。そのため、特定のプロダクトに紐づかず、複数のプロダクトを射程に動ける組織が必要でした。これが、AI Embedded ユニットがCTO室直下に配置されている理由です。

ユニットが向き合っているもの

私たちが向き合っているのは、人材市場のマッチング精度をAI/ML技術で引き上げることです。求職者と仕事をより合った形でつなぐというものです。

求職者一人ひとりが持つ背景や希望は本人が言葉に仕切れない部分を含んでいます。求人もまた、書き起こされる条件以上の文化やニュアンスを持っています。これらを汲み取ってマッチさせるのが、人材サービスの価値の核となります。

マッチング精度が上がると、求職者は自分に合う仕事に出会いやすくなりますし、求人を出す企業側も来てほしい人に情報が届きやすくなります。その結果、応募の質や採用の確率が向上し、事業成果に効いてきます。

組織のかたち

AI Embeddedユニットは、バックエンド、インフラ、MLOpsなどを一つのチームで一気通貫で持っています。それぞれのメンバーの得意領域は活かしつつ、役割の境界を細かく切らず、それぞれの領域を行き来できる設計です。

この組織設計のメリットは、検証から実装までのサイクルがチーム内で完結する点です。必要なデータを準備して、モデルを学習・評価し、APIを実装し、運用する。この一連の流れを自分たちで回すことができます。何かを試したいと思ったときに、すぐに手を動かして次のサイクルに繋げていけます。サイクルが速いと、それだけ多くの試行錯誤を実装まで昇華させることができ、デリバリーの速さにもつながります。

このサイクル速度を支えているのは、一人ひとりが自分の得意領域からはみ出していく姿勢です。バックエンドを主軸にしていてもデータの取り回しやMLOpsにも踏み込みますし、MLを主軸にしていてもAPI設計や本番運用の制約に向き合います。それぞれの専門性を持ちつつ、隣の領域に越境することが大事になってきます。

いま挑んでいるもの - バイトルのレコメンド基盤

私たちがいま取り組んでいるのは、「バイトル」のレコメンド基盤の開発です。「バイトル」において、求職者に対してどの求人を、どんなタイミングで、どう届けるかがユーザー体験、ひいては事業成果に直結します。私たちはここにAI/ML技術を活用して、マッチングの精度を引き上げる取り組みをしています。

扱うデータはテラバイト級です。求職者や求人の情報は日々更新され、行動ログも蓄積されます。レコメンドにはリアルタイム性も求められますし、結果は数十〜数百ミリ秒で返さないといけない。既存のレコメンド基盤もなかったので、何をどう動かすか、データをどう持つか、推論をどこで行うかを含めて、一から決めて作っていく必要がありました。

必要なデータをどこから引っ張ってくるか。社内には複数のデータソースが分散していて、何がどこに、どんな形で残っているかを把握するところから始まります。データが揃っていなかったり、形式に違いがあったりすることも多いので、AI/MLで使える形に整える工程も含めて自分たちで設計していきます。

技術選定も、ライブラリ・モデル・推論環境などの組み合わせを試しながら絞り込みました。新しい手法が次々と出てくる領域なので、最初に決めたものが半年後にも最適だとは限りません。試して、評価して、入れ替えるという動きを何度も行うことになります。

レイテンシに関しても一筋縄ではいきません。リアルタイムで収集されるデータの取り回し、推論のタイミング、キャッシュ戦略など、複数の観点からパフォーマンスの改善を行う必要があります。

ここで効いてくるのが、組織として持つ一気通貫のサイクルです。試したいと思ったことにすぐ手が出せる。サイクルが速いと、行き止まりに当たっても次の手にすぐに移ることができます。

当然ながら、まだまだ課題は多くあります。特にAI/MLで効き目がありそうなデータを核プロダクトから収集していくことです。既存のデータはありますが、AI時代を前提にすると、より親和性の高いデータがあると考えています。

私たちがやりがいを感じていること

ここまでで書いた仕事の中で、私たちが特にやりがいを感じている点が二点あります。

一つは、まだ社内に知見がない領域を、自分たちで組織や仕組みごと作っていけることです。レコメンドのモデルも、動かすための基盤も、社内には前例がありませんでした。何を作るか、どう作るか、どう運用するかをすべて決めながら作っていきます。

もう一つは、自分たちが作るレコメンドが事業成果に直結することです。求職者の体験と、求人を出す企業の成果に、私たちが書くコードが影響します。だからこそ、Howだけにとどまらず、WhyやWhatの段階から携わる必要があります。事業部のメンバーとやりとりをしながら、何のためのレコメンドかを一緒に考え、要件から作っています。

まとめ

設立から約1年、AI Embeddedユニットはまだ進化の途中にいます。「バイトル」のレコメンドを起点に、社内に前例がない仕事を自分たちで作り続けているところです。

これからは、こうしたAI/MLの取り組みをディップ全社に広げていきたいと考えています。各プロダクトでこれらを活用していくために、AI Embeddedユニットをナレッジハブとして機能する組織として作り上げていきます。

執筆者

澤田 悠暉

澤田 悠暉

2023年に中途入社。バックエンド、フロントエンドエンジニアとして、採用DXプロダクトの開発に従事。その後、「dip AIAG」でLLMや検索・レコメンド技術に取り組み、2025年からCTO室でAI Embeddedユニットにて、テックリードとして社内横断的な検索・レコメンド基盤の構築を推進。