こんにちは。ディップ株式会社でエンジニアリングマネージャーをしている佐野です。
今回はEMConf2026にて登壇してきたので、その内容を残しておこうと思います。
エンジニア組織の話になると、よくこんな言葉を聞きます。
- 自律型組織
- 自走するチーム
- フラットな組織
どれも魅力的な言葉です。
しかし、私はこの理想をそのまま信じた結果、組織を崩壊寸前まで追い込んだ経験があります。この記事では、
- 自律型組織の「よくある誤解」
- 実際に起きた失敗
- そこからどう組織を立て直したか
を、実体験ベースで紹介します。
自律型組織の落とし穴
「メンバーを信じて任せる」
マネージャーとして理想的に聞こえる言葉です。
しかし、この言葉をそのまま実行すると、多くの場合組織はうまく回りません。
理由はシンプルです。
自律と自由を履き違えるからです。
自由すぎる環境では、メンバーはそれぞれの判断で動きます。
すると特定の領域に負荷が集中し、組織全体の動きはむしろ遅くなります。
アジリティのパラドックス
この状況は、次の言葉でよく説明されます。
自由すぎるハイウェイは、最も悲惨な渋滞を引き起こす
開発スピードを上げるために「自律」や「自由」を与えた結果、逆に組織が動けなくなる。
これが アジリティのパラドックスです。
私の組織で起きたこと
私の組織でも、同じことが起きました。
- 生産性の低下
- チームの士気低下
- 技術的負債の増大
そして最終的には事業のスピードまで落とす状態になりました。
原因は明確でした。
私が「甘い自走」を許していたことです。
「自走」という名のマネジメント放棄
言葉を選ばずに言えば、「自走」という名のマネジメントの放棄でした。
枠組みのない自由は、カオスを生みます。
その結果、
- リードタイムが長くなる
- デプロイが怖くなる
- 開発コストが膨らむ
といった問題が起きます。
つまり「甘い自走」は事業にとっての負債になります。
自律 ≠ 自由
ここで重要なのが次の考え方です。自律と自由は同じではありません。
自由とは制約がない状態。
自律とは自らルールに従う状態です。
つまり自律とは「境界線(ガードレール)」と「責任」のセットなのです。
組織を変えるセンターピンは「意思決定」
組織を改善しようとすると、多くの場合次のような施策が検討されます。
- 評価制度
- 1on1
- パーパス浸透
- 組織憲章
しかしカオスな組織にこれを一気に入れると、逆に組織は崩れます。
重要なのは一番レバレッジの効くポイントから変えることです。
私が選んだのは意思決定(Decision)でした。
信号機プロトコル
そこで導入したのがTraffic Light Protocol(信号機プロトコル)です。
すべての判断を、次の3つに分類します。

RED(承認)
事業影響が大きい判断
例
- ロードマップ変更
- 優先度判断
EMの承認が必要
YELLOW(相談)
影響が中程度の判断
例
- ミドルウェア更新
- DB変更
Tech Leadと合意
GREEN(報告)
影響が小さい判断
例
- ライブラリ更新
- 軽微なUI改善
現場が即実行
なぜ意思決定から変えるのか
意思決定を整理すると、組織の多くの問題が同時に解決し始めます。
- 止まる場所が明確になる
- EMの負荷が下がる
- 現場が自分で決められる
つまり
心理的安全性が生まれます。
組織に起きた変化
信号機プロトコル導入後、組織には次の変化が起きました。
リードタイム短縮
日常タスクの約80%が
GREEN判断で即実行可能に。
技術的負債の改善
リファクタリングがGREEN扱いとなり
現場主導の改善が進みました。
構造変革の成果
以前の組織では
- トラブル対応
- 管理作業
に 60%の時間が消えていました。
しかし現在は攻めの開発(新機能・R&D)の割合が20% → 40%に増えています。
そしてEMは未来の戦略に集中できるようになりました。

自ら決めて、戦略練って、組織全体の成果へと繋げる
まさに、自律的な組織への進化です
まとめ
組織改革は難しく見えます。しかし最初の一歩はシンプルです。
判断を構造に落とすこと。
まず1つの判断について
- 赤信号(止まる)
- 青信号(進む)
を決めるだけで、組織は動き始めます。
EMConf会場にてお聞きいただいた方、ありがとうございました。
登壇を通じ、理想と現実の差を直視し、意思決定の構造化の重要性をあらためて痛感。明日からの現場でも更なる一歩を積み重ねます。現場の自律を支えるガードレールづくりを、仲間と愚直に磨き続けましょう!


