デザインセンターコーポレートデザイン課の井桁です。
dipでは複数のサービス・ブランドを展開する中で、デザインの品質やブランドイメージが担当者ごとに属人化してしまうという課題を抱えていました。原因は「ルールが足りない」のではなく「なぜそのデザインなのか」を説明する言葉が言語化されていないことではないかと考えました。
そこで、dipでは、細かいルールで縛るのではなく、判断のよりどころとなる考え方をまとめた「dipデザインガイドライン」を作成し、誰もが使えるように、Geminiベースの「AIチェッカー」を開発しています。
この記事では、課題の発見から解決策、実装の難しさ、そして制作の大幅工数削減という成果までの途中経過をまとめました。「デザインの品質管理が属人化している」と悩んでいる方の役に立てば嬉しいです。
サービスが増えるほど、担当者ごとにデザインがばらついていく
dipは『バイトル』や『はたらこねっと』をはじめ、10種類以上のサービス・ブランドを展開しています。サービスが増えるほど、それぞれの担当者の裁量でデザインが作られ、dipとしての一貫したブランドイメージの訴求が難しく、競合優位性を得られにくい状況にありました。
さらには新しく入ったメンバーや他部署から見ても、dipのデザインの拠り所が分からない状態になっていました。実際にデザインセンターには全社のさまざまな部署から日々デザインの相談が寄せられますが、そこでも「どういうデザインを作ればいいか分からない」という声を聞くことが多くなっています。
原因は「ルールが足りない」ことではなく「言葉にしていない」ことだった
ロゴやコーポレートカラーは決まっている。しかし、なぜこの色を、なぜこの写真を選ぶのかを説明できる人が、誰もいませんでした。それこそがデザインが属人化する根本的な原因でした。
依頼が来るたびに私やメンバーがその都度要件を固めて対応すれば、目の前のアウトプットはできあがります。しかし、社名の由来やdipのフィロソフィーといった企業理念は言語化されていたものの、それを実際のデザインにどう落とし込むかという「表現の根拠」までは、誰も説明できない状態が続いていました。
細かいルールで縛らず、判断のよりどころだけを共有する
そこで私たちが作成したのが、判断のよりどころとなる考え方だけを共有し、細部は現場の裁量に委ねる「dipデザインガイドライン」です。私たちが実現したいことは「ルールで縛ること」ではなく「クリエイティブ全体の底上げ」にありました。
dipとしてのユーザー体験の一貫性であり、一貫したそのメディアらしさを伝えられるツールであることを目指し、デザイン原則とdipの世界観を作るルールを策定しました。

なかでも土台になっているのが、デザイン原則です。私たちのデザインは、社会をより良くしたいという「情熱」であり、働く一人ひとりの「夢」を支える力である。そんな考えのもと、次の3つの軸を大切にしています。
dream
デザインは、一人ひとりの夢見る力を開花させるものでなければならない。私たちは、ユーザーに深く共感し、働くことを通じて未来に希望が持てるような体験を創造します。
- ユーザーの「なりたい姿」や「叶えたいこと」を深く理解し、その実現を後押しする。
- 機能的な価値だけでなく、「ワクワク感」や「可能性」といった感情的な価値を提供する。
- 夢への一歩を踏み出す勇気を与える、ポジティブで包容力のある表現を追求する。
idea
デザインは、社会を前進させるための革新的なアイデアの出発点である。常識にとらわれない自由な発想とテクノロジーを掛け合わせ、課題解決のための新しい「解」を提示し、未来のあたりまえを創造します。
- 既存の枠組みを疑い、常に「もっと良い方法はないか」という問いから発想する。
- 多様な視点を取り入れ、大胆な仮説と迅速なプロトタイピングでアイデアを磨く。
- 複雑な課題を解決し、社会をより良くするための新しいスタンダードを提示する。
passion
デザインは、ユーザーに対する誠実な情熱の表れである。細部までこだわり、妥協を許さない姿勢こそが、ユーザーの信頼を勝ち取ります。私たちは、情熱をもって使いやすさと明快さを追求し続けます。
- ユーザーの課題に対して、当事者意識を持って熱心に取り組む。
- 制作プロセスにおいて曖昧さを排除し、本質的な価値をまっすぐに伝える。
- 小さな使いにくさも見逃さず、品質と信頼性を実現するために情熱を注ぐ。
感覚的な判断を、AIが評価できる基準に翻訳する
しかし、ガイドラインを言語化するだけでは、形骸化してしまい、かつ、判断に迷う場面も多く出てきてしまうと考えました。そこで開発したのが、Geminiベースの「AIチェッカー」です。作成したデザインを読み込ませると、ガイドラインに沿っているかどうかをAIが判定し、方針を提示してくれる仕組みです。

評価は2段階に分けています。
- MUST(必須) … ロゴ改変や社名誤表記など、絶対に外せないルール。1つでも破っていれば、他がどれだけ良くても不合格
- WANT(推奨) … UXや目的達成への貢献度など、磨き込んでほしいポイント
デザイン原則についても、3つの軸すべてを満たすことは必須にせず、2つ以上で合格とする遊びを持たせました。機械的に判定できるラインと、人の目線を残したいグレーゾーンを、こうして切り分けています。
工数は大幅削減、そして"dipらしさ"をこれから広げていく

デザインガイドラインを導入後、最初に大きく変わったのはレビューの待ち時間でした。以前は15分から1日近くかかっていたものが、10分以内で各自で方針が見えるようになったのです。制作メンバーが自律的に修正できるようになり、待ち時間が減った分、デザインについて考える回数そのものも増えています。この効果を金額に換算すると、年間で数千万円規模の価値創出に相当すると見ています。
感覚的な「良くなった」で終わらせず、経営が判断できる数字にまで翻訳することは、今回のプロジェクトで特に意識していた部分です。数字以上に、サービスをまたいでdipらしいブランドイメージを一貫して打ち出せるようになったことも、大きな成果だと感じています。
さらには、実際に浮いた時間で注力施策にリソースを集中できた事例も生まれています。(詳しくは「AI時代に"人の手と感性"をどう活かすか?「バイトルの日」LP制作に見る、ディップデザインチームの意匠力追求」をご覧ください。)
ガイドラインもAIチェッカーも、まだ完成形ではありません。
- 社内での認知度を高めること、AIの画像認識精度を上げること、
- ガイドラインをもとにAIがデザインの叩き台を作れるようにすること。
などなど、伸びしろはまだ多く残されています。感覚に頼っていた部分をなくすのではなく、誰もが再現できる形に翻訳していく。 その積み重ねが"dipらしさ"を強くしていくと信じて、これからもアップデートを重ねていきます!

